季節の風景:青苔が潤う今 …
夏の日、青苔を前にし 芭蕉を想う。鈴木大拙によると芭蕉が
佛頂和尚のもとで参禅していた頃、庵を訪ねてきた和尚に「近頃どう過ごしていますか」ときかれ、それをきっかけに“今日とは何か”という話に発展、芭蕉は「雨過ぎて青苔が潤うようなもの」と答えたという。「では青苔が生えるその前は」と問われ、芭蕉が放った言葉が「蛙飛び込む水の音」だったと。芭蕉の禅問答では“古池や”の発句はなく、これが付けられたのは後の話とのこと。“古池や”で始まる芭蕉の名句も、青苔の潤う静謐な心象風景から生まれたのだ
ろうか。 ( 写真・文 大谷恭子)
やがて死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉