「マンションの屋上に携帯電話のアンテナを置くことに反対」などという新聞記事が良く目につきました 携帯電話会社IDOでも、新しい基地局を作るとき必ずこの問題に直面し、苦労したものです。アメリカでは 携帯電話を使いすぎたため脳腫瘍になったと訴えた例もありました。しかし、わが国でも世界でも携帯電話 が原因で発病したと言う真面目な例は報告されていないようです。ただ、だからといってホントに携帯電話 は安全なのでしょうか?誰も死んだ人がいないからでは余りにも非科学的と言うものです。 最近のアメリカの学会誌に登場した次の報告など、大変気になる情報を含んでいます。
10年前までは、電磁波の出るものといえば電子レンジ位のものでした。しかし今は、 携帯電話あり、その基地局あり、PDA、ポケベル、無線LANだって家庭にはびこってますね。こんな厚い 「電磁波スモッグ」の中にありながら、電磁波放許容量の計算には、時代遅れで不十分な標準が使われ 続けているのです。
この標準は1980年後半に米国標準協会:ANSI= American National Standards InstituteがIEEEその他の 協力を得て制定したもので、わが国の標準もこれに基づいています。IEEE/ANSI C95.1-1991と呼ばれる この標準は、体重1kg当たり何Wというように体全体に対する電磁波の曝露量を計算したもので、携帯電話 などが特定の器官すなわち頭部や頬に与える影響を対象にしたものではありません。現在の、熱をベース とした体全体に対する標準は、レーダーや携帯電話基地局アンテナのそばで働く作業員、あるいは携帯電話 基地局アンテナのそばを偶然通りかかった人に対する最大放射許容量を計算するために役立つものです。
すべての生体は電磁波を吸収したり散乱させたりしています。電磁波は、分子レベルで機械的な力に変換 されます。末端神経、細胞核、筋肉の中などはイオンに満ち溢れており、電荷が不規則に分布しているので、 電界により(イオンや分子が動いていれば磁界により)影響を受けるのです。その結果、分子の分布状態は 物理的に変化し、方向を変え、更には変身させられたりします。特に超高速な立ち上がりを持つパルスの 影響が大きいのです。
発射する極く短い電磁パルスが、生体組織に機械的な打撃を与える可能性があるという報告がなされました。 一方、フィンランドの放射・核安全局からは、人間の血管から採取され培養された細胞内の数百の蛋白質 に対して携帯電話が引き起こした影響の報告が出ています。これが人間の健康に関連があるとは言明して いませんが、影響を受けた分子の一つが脳血液障壁に穴を開け、有害な、少なくとも余計な物質を脳内に 取り込んだと書かれています。ワシントン大学からも、生体組織1kg当り0.001Wという低レベルな放射吸収 により細胞内のDNAが打撃を受け、細胞内カルシウムの流出量が増加したり、曝露後の細胞分裂が低下した 例が報告されています。
以上のように、現行の熱効果だけを考慮した標準の正当性を疑うに足る十分な実験的証拠があります。 現在得られるすべての情報を考慮したもっと安全な標準を設定すべきであります。通信業界はこれに極めて 否定的ですが現実に直面すべきです。IEEE標準協会のような専門グループは、米国政府並びに国際的な機関 と協調して長期的な低レベルの非熱的生体効果に関する研究が開始されるよう努力すべきですし、米国議会 はこのような研究の緊急性を認識する必要があります。法律を改定あるいは新設するに当っては、 電気通信事業者だけに一任しないようにする必要があるのです。
携帯電話は生活や暮らし方の中で今や欠くことのできないものであります。今更後戻りすることはできません。 しかしわれわれは、健康と幸せを真に保護するような標準を期待する権利を有しているのであります。
余り心配しすぎることは無いでしょうが、サリドマイドのようなことにならないよう監視の目が必要です。 わが国でもしっかりした対応がされるよう期待したいですね。
IEEEのSpectrum誌、2002年8月号の記事より