Sugar & Salt Corner
No.6    2003年9月18日
佐藤 敏雄 

携帯電話事業者の販売戦略

---- 月次純増台数からの推測 ----

まえがき

わが国の携帯電話は順調にその台数を伸ばしてきたが、普及率が60%を超え、需要の頭打ちが 取り沙汰されるようになった。電気通信事業者協会(TCA)が毎月発表している携帯電話契約数 のデータからその様相を推測してみた。

携帯とPHS増加図

1.携帯電話の増加

図1は過去2年間における携帯電話の増加の模様を事業者別に示したものである。これまでは 毎年ほぼ1000万台ずつ増加してきていたが、最近ではひと頃の勢いは見られない。この点を 明確にすべく、過去2年間の毎月の純増数を調べてみた。
図2は、全国携帯電話の毎月の純増数とモバイルIP契約の純増数を示したものである。 携帯の月次増加図 一見目に付くのは、2002年、2003年共に3月の増加が著しいことである。これは、各事業者が 決算の数字を上げるため年度末に激しい販売攻勢をかけていることと、新入学・入社等の需要 が多いことを示している。この3月のピークを除けば毎月の増加数は40数万台の横ばいであると 言える。年末にはどの商品にも見られる年末需要が見られたものの、昨年の10月、11月の純増数 はいずれも36万台のオーダーで史上最低を記録している。

次にIPについては、台数の増加と極めてよい相関を持っており、かつその数が減少の一途を 辿っていることが分かる。これはこの2年間にIP機能のついた新しい電話機が多数出回るように なると共に、インターネットやメールへの関心が高まり、殆どの人がIP機能付きの電話機を 購入するようになったためであろう。

3社の比較

2.各社別純増数

(1)各社の比較

図3はNTTドコモ、KDDI(auのみ:ツーカーを除く)、 Jフォン各社の純増数を比較したものである。各社ともに3月の純増が際立っている。 全体の傾向を見ると、ドコモとJフォンが漸減しているのに対し、KDDIは明らかに漸増、 しかもその割合が大きい。
図4はドコモの純増数をPDCとFOMAに分けて示したものである。3月並びに年末における増加 が著しい。 ドコモの純増

(2)ドコモ

しかしここ2年間では純増数が漸減しており、本年8月には2年前の半数程度まで 落ちている。 もう一つ注目すべきは、不振を極めていたFOMAが、本年3月に大きく躍進し、 5月末にはPDCとほぼ同数の増加を示し、8月末にはPDCの2倍の増加を記録したことである 。FOMAの純増数がPDCを上回ったのは史上初めてである。これは同社が端末の販売戦略を大きく 転換し、3Gの世界戦略をも見据えてFOMAの販売に重点を置き始めたためと推測される。

(3)KDDI(auのみ:ツーカーを除く)

KDDIの純増 図5に示すKDDIの動向は極めてドラマティックである。すなわち、
@ 昨年3月まで平坦な伸びを示していたcdmaOneが、4月からcdma2000-1Xに取って代わられ、 特に12月、3月の需要期にそれが顕著に現れている。
A PDCは毎月純減を示し、本年3月末をもってサービスを停止した。
B 総合的な純増数は右肩上がりであり、本年8月には2年前の2〜3倍増となっている。

(4)Jフォン

図6はJフォンのPDCとW-CDMAの純増を示したものである。同社の3月の伸びは他社に比し著しく 高い。また純増数は急速に減少の一途を辿り、本年8月には、2年前の3分の一以下となっている。 昨年末から始ったW-CDMAの増加は微々たるものである。 Jフォンの純増

3. 第3世代携帯電話システム(3G)の純増数

図7に3社の3Gの純増数を示す。W-CDMAとの比較は当を得ないかもしれないが、 KDDIのcdma2000-1Xの伸びは著しく高く、8月末現在の累計は973万を数えるに至っている。 これは多くのcdmaOne利用者がcdma2000-1Xに乗り換えていることを示し、cdma2000-1Xの導入は 大きな成功を収めたようだ。この方式はcdmaOneに比べて電話加入者容量が2倍になり、 データでは144kbpsの伝送が可能で動画のスムーズな伝送も可能である。インフラとしては 従来設備の簡単な改修ですみ、容易に全国展開ができたことが効果的だったと考えられる。

3Gの純増 一方FOMAで先行したドコモは、初年度の売上目標を大幅に下方修正したが、上記のような 販売戦略の転換に伴って順調に加入者が増加しており、8月末現在では累計79万台弱となっている。 立川社長は先週「80万台を突破し、販売目標(150万)は達成可能だ」と強気の発言をしている。 ドコモはヨーロッパでのiモードの普及に力を入れると同時に、米国AT&Tワイヤレスに3Gの技術・ 資金の援助を行っており、今後の状況が注目される。
JフォンのW-CDMAはまだ先が見えていないが、Vodafoneに名称変更を行うべく、ヨーロッパ諸国 とのローミングを売り物にして浸透を計っているが、当面はGSMとのデュアルモードでによる ものと思われ、ヨーロッパ諸国でのW-CDMAの普及を待たなければならないだろう。

掲載済みS&S一覧次号  世界の3Gケイタイ(1)