今年秋に米国海軍は、航空母艦から航空機を発進させる「カタパルト」を革命的に変えるシステムのテストを開始する。 これは高度なエネルギー蓄積システムにより爆発的に航空機を発進させるもので、リニア新幹線と同じ原理の誘導電動機 を使っている。
現在EMALS (ElectroMagnetic Aircraft Launch System)と呼ばれる2システムが試験されているが、空母上で必要 とされる実物(103m)の半分の長さのものである。最初のシステムは、海軍の全電子化艦隊の一部となる次世代空母CVN-21 で使用されることとなる。1システムは30億円で、開発費は約400億円、一隻に4システムが搭載される。
現在では、最新の原子力空母でも蒸気発進方式のカタパルトが使われている。F-14トムキャット、F/A-18ホーネット
など33トンもの機体を2、3秒間に時速240kmまで一気に加速する。俗に「Steam Cat」と呼ばれている現システムは
蒸気パイプやバルブが迷路状になった複雑怪奇な代物で、多数の経験豊かな要員を必要とする。その爆発的な力は
蒸気で駆動される巨大なピストンで得られるが、そのエンジンは巨大で重く、かつ非効率なものである。
EMALSは4.5トンから45トンまでの航空機を時速100ないし370kmまで加速でき、従来の力ずくのシステムではできなかった
細かな作業を巧みにやることができる。アフガニスタンやイラクで「プリデーター」とか「グローバルホーク」という
無人飛行機が活躍したが、軽い無人機にも重い戦闘機にも対応できることは将来的に極めて大切な条件である。
EMALSの心臓部は、長さ103mのリニア誘導電動機である。列車の場合は移動部分が浮上するが、 EMALSのアーマチュアはローラーにつながれ、それを載せたキャリッジ打ち出しガイドの中を走行する。 EMALSのエネルギーは発電機のローターに蓄えられるエネルギーから供給されるが、その詳細は明らかに されていない。ローターの運動エネルギーが電気エネルギーに変換され、半導体エネルギー調整装置が インバーター経由で2、3秒間持続する強力なパルス電流をステーターに供給する。
走行するアーマチュア部分 のコイルにこの電流を供給することにより移動電磁波が生成される。定格数千ボルト、数万アンペアのシリコン 制御整流器が用いられている。ステーターに流れる電磁波がアーマチュアを加速する。この電磁波は、 モーターがガイドの最先端に到達するまで(リニア新幹線のように)アーマチュアに対して吸引と反発を同時に行い、 キャリッジの速度が規定値に達すると上の航空機が切り離され離艦する。色々な航空機に対して電流や速度が 最適となるようにクローズドループが形成されている。蒸気カタパルトはオープンループで、 ひとたび動き出したら制御が利かない。将来はサイズも重量も試験システムの半分になり、現行より30%少ない 要員で動かせるようになる。
このようなシステムはカタパルトのような軍事目的ばかりでなく、ハイブリッド・カーの再生エネルギー保存装置 向けにも開発が進んでいるという。