Sugar & Salt Corner
No.15-2    2004年8月10日
佐藤 敏雄 

第3世代携帯電話システムの現状 (その2)

4. 世界の導入状況
(1)ヨーロッパ
@ 概観
ヨーロッパでは2001年5月現在で13カ国56事業者が3Gのライセンスを取得していましたが、その多くは撤退 に追い込まれました。周波数のオークションで多額の資金を費やしたためです。総額で1000億ユーロ以上の 免許料が支払われており、サービスで先行しているHutchisonの「3」ネットワークの動向が注目されています。
A Hutchison
香港の大富豪Hutchison Wampoaがヨーロッパ7カ国の他、オーストラリア、香港、イスラエルで3Gのライセンス を持っていますが、2003年3月3日、「3」という名称を用い、英国とイタリアでサービスを開始しました。 ヨーロッパでは最初の3Gです。VodafoneやOrangeなど2.5Gとも呼ばれるGPRS(= General Packet Radio Service: GSM版パケット方式)で先行している競争相手に対抗するため、技術が完成するのを待たず事業を開始したようで、 通信切断と重いハンドセットなどに問題があるといいます。
「3」はサービス開始以来6ヶ月でイタリアで30万人、英国で15万5000人の加入を獲得、2004年5月には計170万人 を獲得しました。しかし料金値下げや重い投資のために利益が出ておらず、その存続すら危ぶまれているようです。 オーストラリアでは2003年4月、香港では2004年1月ににサービスを開始しています。
B その他
Vodafoneは12カ国でライセンスを取得しており、最近スペイン、イタリア、トイツ、ポルトガルなど一部市場で データ通信を開始しました。一方Orangeが5月にフランスのトゥルーズで、また7月には英国の主要都市でサービス を開始するなど、ようやく動きが出てきたようです。
ドイツのT-Mobileは今年の秋までに国内200都市で3Gを開始するとのことです。同社は9240億円もの膨大な免許料 を支払っています。

(2)米国
@ Verizon Wireless
2003年末、米国では初めてワシントンとサンディエゴで1x EV-DOサービスを開始しました。今年は10以上の都市で cdma2000-1XとEDGE(=Enhanced Data GSM Environment:最高384kbpsのデータ転送が可能なTDMA方式)を展開する ようですが、全国展開は2005年以降になるようです。
A Sprint PCSが2002年8月、CDMA2000-1xのサービスを開始し、 全国展開をしている6社が出そろいました。同社は2005年中に全米主要都市で1x EV-DOによる高速データを提供 するといいます。
B S&S 11号でご紹介したように、CingularはAT&T Wirelessを 買収して2004年中には全米1の事業者となるはずです。両社は夏までにEDGEの全国展開を完了するそうですが、 そのため3Gは2005ないし2006年にずれ込むようです。ただ、AT&T Wirelessは株主であったドコモとの契約に基づき、 2004年7月、シアトルなど4都市でW-CDMAサービスを開始しました。

米国では2GHz帯の周波数割り当てが確定せず明確な将来方向は見えていません。最近やっとアナログのAMPSから 第二世代のデジタル(cdmaOne、GSM、D-AMPS)方式へと転換が進んできた米国にとって、3Gというのはまだ 現実的ではないようです。米国での携帯電話は電話利用が中心であり、インターネットはパソコンでというのが 当たり前となっています。本格的な普及はまだ先になるもののようです。

(3)韓国
韓国ではSKT、KTF、LGTの3社が800MHz帯並びに1.7GHz帯でcdmaOneとCDMA2000-1xを運用中です。2004年3月現在、 SKTの加入者は1540万、KTFのそれは710万です。EV-DOについては、SKTが2002年1月に、KTFは同5月からサービス しており、それぞれ230万加入を擁しています。 更に注目すべきは、SKTとKTFが韓国政府の意向に沿い、2003年末にW-CDMAのサービスを開始したことです。 これは国内メーカーにGSM携帯機での国際競争力をつけさせる狙いがあるものと思われますが、韓国政府の指導力、 国策は常に絶大なものがあります。

(4)中国
2004年5月現在、全国の携帯電話利用者は3億500万人で世界第1位です。GSMをサービスしている「中国移動」 が最大の事業者ですが、第2の事業者「中国聯通」はGSMとCDMAをサービスしており、約1億人の利用者があります。 CDMAの利用者は約2300万人程度で、その内400万が1xを利用しています。
3G免許の発給は再三延期されてきました。今は2005年になるとの噂がありますが、中国政府は何のコメント もしていません。「中国移動」と「中国聯通」とが有望視されていますが、現在は固定通信しか行っていない 「中国電信」と「中国網通」にも可能性があるとのことで、各社が実験を行っています。
一方、中国では独自の技術であるTD-SCDMA (Time Division-Synchronous Code Division Multiple Access)を 鋭意開発中です。この方式はシーメンスと「大唐」によって開発されたもので、PHSと同じくTDD方式であることから、 ペアになった周波数は必要ありませんし、上下非対称のデータ通信に最適だといい、帯域幅は1.6MHzと狭くてよいのです 。産学協同で8社が政府の下でTD-SCDMAフォーラムを作り早期普及を目指すことを決めましたが、サービスは当面 中国内に限られるのではないかと見られています。この技術の開発進展状況が中国の3Gの将来動向を握っている ようですが、その裏には通信業界の更なる再編成が見え隠れしています。

5.むすび
 以上、3Gの最新の情報をまとめてみました。この世界は日進月歩で目が離せません。技術的な話で読みにくかった事 をお詫びいたします。3Gのような新しいシステムはいつの間にか人々の生活に溶け込み、やがて無くてはならないもの になって行く宿命にあります。無線は古くて新しい技術。若い人の力で、更に楽しいシステムが普及していくことを期待 したいものです。

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