「あるスエーデンの衛星は、サブコントラクターのミスでブースターの点火 システムが、ブースターの排気熱で 破壊されてしまった。」昔、コムサット研究所で一緒に働き、最近横浜にやってきた宇宙技術者の Roger Taur 氏が、昨年春の サテライト会の講演で、「日本にはまだシステム・エンジニアリングが根付いていないから」 と喝破しておりました。そんな過去の例を引くまでも無く常識的に分かりそうな問題ですが、 部外のシロートには内情は分かりません。データ上からは十分安全と判断されていたのでしょう。
さて、米国に大変有名な諺があります。曰く、
“Anything that can go wrong will go wrong.”
人呼んで 「マーフィーの法則」 (Murphy’s Law)
であります。直訳すれば 「駄目になるべきものは必ず
駄目になる」 つまり 「駄目だったものには始めからその原因が潜んでいたのだ」 ということのようです。
今を去る18年前、インマルサットの技術・運用諮問委員会(ACTOM)で議長をしていたとき、米国政府筋から
できの悪い提案文書が出されてきました。ソ連が反対するのは目に見えていたのですが強引に提出されてしまい、
上部機関である理事会にまであげられたのですが、結局そこで否決の憂き目に遭ってしまいました。
隣にいたアメリカの友人 Ed Martin 君がニヤニヤしながら、“See ? That’s Murphy’s Law.”
と耳打ちしてくれました。
「物事は、最も都合の悪い時に、最も具合が悪いように壊れる」
というのが
、彼の解説でした。
エライ人が見に来たときに展示物が故障したとか、受験の前の日におなかが痛くなったとかいう経験は
誰もが持っているのではないでしょうか。
これまで450以上の超小型衛星を40年間も作りつづけてきたあるアメリカのエンジニアの経験によれば、
完璧なものは僅か69%しか無かったそうです。地球上数百キロの上空を飛ぶ衛星にとって部品障害は最も
不都合な障害でしょう。マーフィーさんは正しいのです。
米国の例では、割り当てられた周波数は雑音が想定以上に大きかったとか、職工達が測定機を繊細な部品の 上に落としたとか、工場の屋根が雨漏りしていたとか、想像もつかないような誤りがままあったそうです。
どんなにチェックリストを用意しても、どんなにいい手順書を書いても人間は間違いを犯すもので、 これが現実の世界であります。そんな人間のミスをカバーするためにどんな防止策が用意されている でしょうか? まさか2階からドライバーが落ちてきてもいいように太陽電池のカバーを厚くしたりは しませんよね。新生JAXAの技術力に期待して、打上げ成功を祈りましょう。新しい気象衛星と呼んでもいい MTSAT-1Rが載っているのです。
なお蛇足ながら、「マーフィーさん」 というのは特定の人の名ではなく、日本語で言えば 「太郎の法則」 とでも言うものの様です。辞書を引くと 「仕事は常に予想したより長時間かかるなど, 経験から生まれた いろいろなユーモラスな知恵」 とありました。