Sugar & Salt Corner
No.29  2006年9月14日
佐藤 敏雄 

携帯電話

  ----- 最近の気になる動き -----
携帯電話は普及し尽くし、すでに市場は飽和状態にあるといわれるが、その実態はどうか。 最近話題の同番移行と合わせて、最新事情の一面を紹介する。

携帯電話の伸び
図1

市場動向

KDDIが毎月の純増数でドコモを再び追い越したと新聞報道があった。しかし一方ではもう携帯電話は 頭打ちという情報もある。最新の実態を知るべく、電気通信事業者協会のデータを当たってみた。
8月末、全国の携帯電話総数は9, 350万台である。これにPHSの484万台が加わる。8月1ヶ月間、 KDDIではauが25万台増加したが、グループ内のツーカーが13万台減少したため、差し引き12万台 の純増となり、トータル2, 620万台となった。これに対し、ドコモの純増は11万3, 000台、 全利用者は5, 200万弱である。

図1 はPHSと各社の携帯電話の過去10年間の伸びを 示したものである。一時の勢いはないが、未だに携帯電話は 増加を続けている。

携帯電話についてみると、NTTドコモが老舗の強みを発揮し、56%のシェアを誇るが、KDDIが28%で これを追っている。この中には約200万のツーカー利用者が含まれる。一方ボーダフォン (10月からソフトバンク)は若干低迷を続け、16%のシェアとなっている。

近年、携帯電話の通信速度が急速に上がり、動画やいわゆるワンセグのように、テレビまで見られる ようになってきているが、これは各社が導入した、いわゆる第3世代携帯電話(3G)が普及してきたため である。3Gには世界的に二つのシステムが競合している。W-CDMAとCDMA2000 1Xである。前者はドコモ とボーダフォンが、後者はKDDIが採用している。しかしこれまで使われてきたシステム(2G)も未だ 数多く残っており、各社とも複数システムを抱えて運用効率を落としている。

3G・2G
表1
表1 はこの状況を示した ものである。これによると、W-CDMAが2社で34%を占め、CDMA2000 1Xは25%を占めている。残りの約4 0%が未だ第2世代システムである。

KDDIはブランドネームをauとし、すべてCDMA方式に切り替えたが、まだ最初のバージョンcdmaOneが 70万余り残っているほか、グループ内のツーカーは全数が第2世代のPDC(TDMA)方式である。 ドコモはまだ半数弱がPDC、ボーダフォンは7割強のPDCを抱えているのが実態である。

3Gの導入に当たっては、世界的に唯一つのシステムにしようと統一の努力が払われたが、企業間のエゴ のため終にこれは果たせず、世界が2分されてしまった。古くは商用電源の50Hz /60Hz問題に遡り、 近年ではビデオテープのVHS/ベータマックスの争いがあった。これはVHSの完全勝利に終わったが、 今度はDVD方式で映画業界をも巻き込んだ開発が進められ、結局HD-DVDとブルーレイ・ディスク(BD) の2陣営で妥協が成立せず、この秋からは別々の製品が販売されることこととなった。技術とビジネス のエゴ、これは永遠に続くものであるらしい。3G統一の議論に長らく携わってきた筆者としては、慙愧 の念を禁じ得ない問題である。

同番移行

携帯電話のNumber portability(同番移行、番号持ち運び)という制度をご存知だろうか。 外国では数年前から実施されていた制度だが、いよいよわが国でも10月24日から始まることが決まった。 開始を控え、テレビや新聞で報道される機会が多くなったが、イマイチ分からないという面もある。 そこで最近の情報をまとめて紹介してみよう。

使いにくいから別の機種、それも別の会社のをと思っても、電話番号変えなければならないのがいや だからと二の足を踏んでおられる方も多いはず。それが、別の会社のケイタイに鞍替えしても番号を 変えなくてすむ、そんな仕組みが始まろうとしている。

米国の例を挙げよう。一昨年2月のS&S CornerでAT&Tの衰退を報告した折に指摘したが、 AT&T Wireless社に対しては、他社に同番移行したいが許されなかったという苦情が他事業者に比べ 遥かに多く寄せられたそうで、2003年11月の統計では、AT&T Wirelessから他社に流れた顧客はどの 会社よりも多かったという。果たしてわが国でも同様な大規模な地殻変動が起きるのであろうか。

(1) この問題を大々的に取り上げたのが8月20日 の夕刊フジ(k-unet世話人の一人、樫村さん提供)。派手な紙面は差し置いて、要点を記せば以下の ようである。

MM総研調査では、11%の利用者が他社へ鞍替えする可能性があるという。業界票読みでは、これにより auがシェアを伸ばし、ドコモは横ばい、ボーダフォンは苦戦というが、果たして・・・
@ NTTドコモは最大のシェアを持つが、ライバルauへの対策に余念がない。番号ポータビリティに 特効薬はないと、他社同様なサービスも用意、長期利用者やファミリー割引、ポイントサービスなども揃え、 アフターサービス、法人向けなどで強みがある。
A 一方、auは元気がいい。着歌フル、ウォークマンケータイなど音楽サービスが人気。8月末のシェア は28%だが、後述のようなアンケートでは「auに変更したい」が多い。同番移行については詳細を いち早く発表し、やる気十分のようだ。CDMA2000 1X 並びにその高速版 EV-DO 方式(WIN)を採用する など早くから通信速度高速化を図り、音楽や映像サービスを容易とした。一人でも割引き可能な「MY割」 も用意、一歩他社の先を行っているように見える。革新的なサービスを近く始めるかもしれない。

この点について、筆者の友人である同社幹部に詳しい説明を求めてみましたが、これは KDDIの最重点施策の一つであるから、今、話すわけには行かないと断られました。
B ソフトバンクはボーダフォンを買収。価格破壊の孫社長、何をしでかすか分からない。端末をただで ばら撒くのではなどの話もあるが、1.7兆円もの買収に伴う借金もあり、価格破壊はできないだろうとの 見方がある一面、顧客の流出が止まらないことになれば思い切った手を打つかも知れない。果たして 隠しダマはあるのか。一旦値下げ競争に火がつけば右へ倣えで、各社が巻き込まれるのは必至である。 パンドラの箱は開くのだろうか。

(2)読売新聞 こちらはNTTレゾナントとの共同調査結果を掲載しているが、「乗り換え慎重7割」と、フジとは体温が 異なっている。

変更希望の有無
図2
@ 図2 は携帯電話会社を変更したいか否かを聞いた 結果である。一見、「どちらかと言えば」を含め、 「変更したくない」が多いようだが、KDDI利用者の「変更したくない」や、ボーダフォン利用者の 「どちらかと言えば変更したい」が目につく。この調査で「変更したい」「どちらかと言えば変更したい」 と答えた人に、ではどの会社に移りたいかと聞いたところ、
A ドコモを希望したのは、KDDI利用者全数の11%、ボーダフォン利用者の24%で、その理由は、 「周りで使う人が多い」(51%)、「電話がつながりやすい」(35%)が上位。
B KDDIを希望したのは、ドコモ利用者の13%、ボーダフォン利用者の18%で、その理由の上位は 「通信料の安さ」63%、「端末のデザインがよい」48%、「音楽関連サービスの充実」25%であった。
C 一方、ボーダフォンを希望したのは、ドコモ利用者の5%、KDDI利用者の4%で、 「通信料の安さ」60%、「ワンセグ放送などテレビ機能が充実している」28%等であった。
D「変更したくない」「どちらかと言えば変更したくない」と答えた人は、3社利用者全体の74%にのぼった。 変更したくない理由は、「料金やサービスに不満がない」「メールアドレスを変更したくない」、 「手続きが面倒」、「今の割引制度が使えなくなる」などが上位を占めた。
E 手数料 番号が変わらないのはありがたいが、この同番移行、料金がかかることが案外知られていない。 KDDIは最初に手数料を発表した。他社からの乗り換えは無料で受け入れるが、自社利用者の流出を防ぐため、 解約には2, 100円の手数料を取る。また他社からの乗換えでも、通常の新規契約と同様に契約手数料 2, 835円がかかる。ドコモも、8月末になって手数料を発表したが、その結果はKDDIと同額の解約手数料 2, 100円であった。

ドコモ、ボーダフォンともに、乗り換え時に2, 000ポイントの提供などを謳っているが、いずれにしろ、 他社に乗り換えた場合には、その会社の端末を買わねばならず、同番移行、必ずしも喧伝されている ように有利だとは言えないようだ。
  以上、最近の携帯電話をめぐる話題から市場状況と番号持ち運び制度に着目し、主な新聞記事を紹介した。 飽和しつつある市場を巡り、各社の秘策が注目される。

以上
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