上海の地下鉄乗換駅である龍陽路駅から浦東国際空港までを結ぶ30kmにおいて、ドイツの技術導入 によるリニア試験線が営業的デモを繰り返している。複線で往復運転し、最高時速は430km。総工費は 100億元(約1300億円)。このプロジェクトは政府資金援助を受けたジョイントベンチャーである 上海マグレブ社とドイツのトランスラピッド・コンソーシャムが協同して建設中のものである。
試運転は2002年12月31日に開始され、当時の朱鎔基首相も搭乗した。今年1月1日から正式運行を開始するとの 報道があったが確認されていない。試運転期間中は往復乗車券のみ発行の観光サービス運行で、タクシーなら45分かかる ところを8分で空港に到着する。SARSのため中断されたが9月から再開。国内外の観光客延べ50万人余りを 輸送したという。往復150元のところ、人気で1000元にもなったとか。これとは別に北京−上海間の高速鉄道計画 があるが、ドイツが推薦していたリニア方式を断念、日本とフランスが提示していたレール方式を採用することに決定した とも伝えられたが、それを打ち消す報道もあり、いつもながら中国の新技術に対する決定が、極めて政治的なものである ことが窺われる。
磁気浮上の技術は100年も前に、ロケットで有名な米国のロバート・ゴダードとフランスの発明家エミリー・バシュレット によって考え出され、1934年にはドイツでハーマン・ケンパーが特許を取っている。
リニアは1.5m/秒/秒という急速な加速が可能で、NASAではロケット打ち上げの補助として、また米空軍は 航空母艦からの航空機発進への利用を計画している。列車では5km走れば時速300kmに達する (レール型では30km必要)。騒音発生源である車輪、レール、軸受け、パンタグラフなどがないためその運行は静かである。 燃費も通常列車より少なく、航空機の1/5、車の1/3程度。建設費は複線でkm当たり2000万ドルであるが、 高速道路の6ないし10レーンもの輸送力がある。
磁気浮上には2方式あるが、上海のシステムはドイツで開発されたEMS(ElectroMagnetic Suspension)方式である。 図1にあるように、車体に設置された電磁石Bとガイドウエイが、 吸引し合い、車体の重量と電磁吸引力がバランスしたところ で車体が保持される。隙間Bは僅か10mm±2mmで、1秒間に10万回隙間の測定を行って電流を調整し間隔を維持する。 車体とガイドウエイの間隔Aは15cmある。車体やガイドウエイの状況は38GHzのリンクで中央管制局に送られ監視・ 制御される。推進の原理は、ガイドウェイと車両の一部で構成されるリニア同期モーターである。ガイドウエイと電磁石Cが 反発しあって車体を中央に維持する。
もう一つの方式はEDS(ElectroDynamic Suspension)方式と呼ばれるもので、わが国のリニアとフロリダのシステム で採用されている。この方式は図2 に見るように、 磁気の反発並びに吸引力を利用したものである。側壁には8の字型 をした浮上案内コイルが縦に設置されており、上のコイルは車体の電磁石と引き合い、下のコイルは反発しあうことに より浮上する。ガイドウェイと車両の隙間が大きく、わが国のように地震の多い国に適している。しかしそのためには 強力な磁石が必要で、これを車載のヘリウム冷却超電導磁石により達成している。
ドイツでは2003年に、ミュンヘンの空港システムが予算化され、2005ないし2006年には建設が始るようだ。
米国のバルチモアまたはピッツバーグの計画は米国交通省からの予算獲得競争の段階である。
わが国では1962年、新幹線の次の超高速鉄道としてリニアモーター推進浮上式鉄道の研究がスタートした。1972年
に国鉄・鉄道技術研究所(現:鉄道総合技術研究所)内で初めて浮上走行に成功し、1977年には宮崎に実験線が建設され
、1979年、鉄道の世界最高時速517kmを記録した。宮崎実験線は単線で、トンネルや勾配、曲線がないことからこれら
を備えた山梨実験線が建設されることとなり、1997年から山梨リニア実験線の走行試験が始った。現在では1日の走行距離
2872kmを記録。これまで試乗者数が6万人を突破している。次の試乗会は3月25−27日で、申し込み締め切りは
2月6日。